■【特集】岐路に立たされた伝統食・いぶりがっこ 師匠の"せつ子ばっちゃ"と一緒に守る 女性の挑戦に密着(秋田県)
雪国秋田の伝統食・いぶりがっこ。
直売所にも並んでいますが、去年よりも商品が減ったな、と感じている人もいるかもしれません。
改正食品衛生法が完全施行となって初めて迎えた冬。
いぶりがっこの生産者に密着しました。
■食品衛生法の改正 岐路に立たされたいぶりがっこ名人
いぶりがっこのいぶし作業は、秋田の冬の風物詩ともいえる光景です。
いぶりがっこを製造販売する、三吉農園の代表・加藤マリさん。
場所によって、煙のあたり具合が違うため、一本一本位置を変えます。
三吉農園 加藤マリさん
「私的には、節子ばあちゃんのいぶしが一番ベストオブいぶしだと思っているので、このいぶし小屋も節子さんのいぶし小屋と全く同じように作ってくださいって大工さんにお願いして作ってもらっているんですけど」
火加減にも気を配りながら、3日から5日かけて、じっくりといぶします。
目指すのは、いぶりがっこ作りを教わった節子さんのあの絶妙ないぶし具合。
高橋節子さん
「これおめのだが?」
加藤さんが師匠と仰ぐ、高橋節子さん89歳。
40年近く、いぶりがっこをつくってきた、漬物名人です。
節子さん
「いい塩梅だ。塩っけがよ、ちょっとな。もうちょい」
加藤さん
「味は薄味だもんな、うちのはな」
節子さん
「漬物ってよ、ある程度はやっぱり塩分ねば(なければ)、おいしくね」
秋田の伝統食・いぶりがっこ、その生産者が、岐路に立たされていました。
節子さん
「やめる。やっぱりよ、89歳もなってからだば、子どもたちにごしゃかれる(怒られる)。やめだ方がいいって。加工所がなければ、やられねぇもの」
きっかけは、食品衛生法の改正。
基準を満たした施設がないと、製造・販売ができなくなったため、節子さんの小屋に、販売用のいぶりがっこはありませんでした。
節子さん
「何キロ漬けたって書いてるんだよ。これ。秋田美人つけたって書いている」
高齢なこともあり、小屋の改修は諦めました。
節子さん
「野菜だけでだば、販売してらったってよ、生活していれば容易でねかったもんな。それで今度漬物をやるようになって、野菜で生活して、漬物を老後のためにって寄せてらった。寄せるにいいくらいよ。お金になったった。いい時代だった」
家ごとに味があり、レシピは秘伝とも言われた、いぶりがっこ。
農家にとっては、貴重な収入源でもありました。
食の安全が求められる中で、長年愛されてきた味が、消えようとしていました。
■全国的な人気も…直売所で起きた異変
節子さんが、漬物を出荷販売していた、道の駅なかせん。
2月に入ると、地元の生産者が漬けたいぶりがっこが直売所に並ぶようになります。
秋田の冬の保存食は、今や全国的な人気。
関東から
「せっかく秋田に来たから、やっぱりいぶりがっこだなということで買いました」
「いぶりがっこはね、好きなの。好きなんですよ」
「帰ったらクリームチーズにのせて食べます」
生産者が手間暇かけて作ったいぶりがっこ。
しかし、売り場の状況は、例年とは違います。
記者
「前の売り場はどういう感じでした?」
道の駅なかせん 橋敏子さん
「(例年は)こちらの台からそちらの端の台までずらっとこういう感じで並んでおりましたね。かなり減ったと思いますね」
毎年20軒ほどの生産者のいぶりがっこが並んでいましたが、今年はわずか5軒に激減しました。
加工所を整備して続けるか、販売をやめるか、生産者は決断を迫られました。
20年以上、漬物づくりを続けてきた、佐々木洋子さん。
去年、加工所を新設し、今シーズンは600キロほどのいぶりがっこを漬けました。
佐々木洋子さん
「販売する以上は、ちゃんとした施設がなければできないので、それで思い切ってつくりました。おいしいって言われるから、それでなくしたくないなと思って、それで今がんばってやっています」
多くの作り手が製造を断念する一方、続ける選択をした生産者もいます。
■おばあちゃんのいぶりがっこを守りたい 新たな作り手の思い
長年愛されてきた味を残そうという取り組みも行われています。
"せつ子ばっちゃ"というのは、あの漬物名人・節子さんのこと。
道の駅の運営会社では、節子さんから直接指導を受け、同じレシピで作る漬物の製造販売を行っています。
橋さん
「やっぱりその人の味がなくなってしまうというのが残念なので、途切れないように、少しでも続けていっていただきたいなというのが、皆さんの思っている本音じゃないでしょうかね」
三吉農園では、おととし、800万円をかけて、食品衛生法の基準に沿った、漬物の加工所を整備しました。
節子さん
「マリさん」
マリさん
「はいよ、おはよう。合うのあればあれだけど」
いぶりがっこ作りをやめたはずの節子さん。
加藤さんから何度も誘われ、やって来たのです。
加藤さんは、ここを共同の加工所にして、周りの生産者も使えるようにと考えていました。
米ぬかや塩、砂糖を混ぜた、節子さん独自のレシピで漬け込みます。
節子さん
「とにかく空気があんまり間さ入らないように、スパッと漬けねば、間さこういうふうに空気が入ればダメだから、それでぐーとおさめて、あんまり穴があかないようにして、スパッと漬けねば、やっぱり出来上がりが悪い」
加藤さんは、寒い中でも大変な作業を丁寧に続けてきた節子さんの生き方にも触れてきました。
加藤さん
「節子さんたちなくしては、私たちのいぶりがっこづくりというのはないなというふうに思っていて、いぶりがっこづくりを通してもそうだし、いろんな生き様みたいなものも常に勉強になるし、お話していてもすごい楽しいし。いぶりがっこもそうだし、今後いろんな生き方の面でも勉強させてもらいながら、まだまだ続けていきたいなとは思っています」
■大きな決断を経て…今年のいぶりがっこの出来は?
漬けてから約3か月。
節子さん
「よく漬かっている」
大きな決断を経て、今年のいぶりがっこが完成しました。
節子さん
「この色見れ。いいごと」
加藤さん
「理想的だな」
節子さん
「理想的な色だ」
加藤さん
「ぎゅっと凝縮されたような」
節子さん
「自分でできることは全部教えてやって、次の世代の人たちにそれを生かしていただければ一番いいと思っています」
加藤さん
「若い者に負けてられね」
節子さん
「若い人たちからエネルギーをもらっている」
伝統の味をつないでいく、頼もしい作り手も育ってきています。
(05/01 18:16 秋田放送)
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