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【特集】短角牛に魅せられて@(岩手県)



 特集です。牛本来の性質を色濃く残し赤身の肉が健康的だとされている短角牛は、岩手県が全国のシェアの半分近くを占めています。この短角牛に魅せられて県外から移住し、飼育に情熱を注いでいる人がいます。2人の女性を2回シリーズでお伝えします。

 5月2日。久慈市山形町の牧野に短角牛が放たれました。半年ぶりの大地の感触に牛たちは大喜びです。

 茨城県出身の葉阪裕子さんは40年近く勤めた牛のエサを作る会社を定年退職し、2019年久慈市に移住して長年の夢だった短角牛の飼育を始めました。

Q今年も山上げがやっとできましたけどいかがですか?
葉阪裕子さん
「ホッとしましてね。早く(牛舎から)出てもらいたかったので、今年は去年よりもみんな結構早く生まれたんですよね。十分大きくなっているので早く行ってもらいたいと思っていました。助かりました、またこの季節がいい季節が来たなって」

 全国で飼育される短角牛のうち、45パーセントと半数近くは岩手産です。岩手の短角牛は夏山冬里方式と言って、夏の間は山に放たれ、冬は牛舎で育てられます。しかしなかには寒くても外で遊びたいやんちゃな子もいます。

葉阪裕子さん
「あれっ、こいつら外に出てまた朝までに戻ってきたのかなってよくよく足跡を見たら、ここからぐるっと回って向こうまで行って、こっちにも行った足跡があるんですよ。そうやって夜中遊びまわって、私が来る頃にはちゃんとここに戻って、しかも扉を本当に牛が出られるような幅じゃなく閉めてあった。ちゃっかり夜中に遊びに行って、また朝までに戻って怒られるからなるべく閉めておこうみたいに。まったく、なんて言うか仲間で群れで行動する本来の牛の性質が残っている」

 牛のエサを生産する会社に勤めていた葉阪さんは、作り方に特別のこだわりがあります。葉阪さんは久慈に移住して短角牛を飼い始めてから、市内にあるエサ工場に頼んで、国内で出た素材を使って独自のブレンドをしたエサづくりをしてもらっています。

葉阪裕子さん
「この状態になるまで何回も何回も作り直していただいて、今はものすごく気に入ってきたっていう感じですけど、宇部川ファームと言うコメのSGS(飼料用米を乾燥させず粉砕したエサ)、それにベアレン産のビールかす、それに糟糠類という穀類の皮に当たる部分、それも全部基本的には副産物で完全なエコフィード(食品リサイクルによる資源の有効利用)で、なおかつほとんどが東北産の原料で作っている」

 2025年3月。葉阪さんの牛舎では出産ラッシュが続いていました。

Qこの子が今朝生まれたばかり?
葉阪さん「大きいですね結構これ。お母さん(子牛は)メスですね」

Q短角って子育てが上手だというけれど、どうですか
葉阪さん
「上手だと思う 私は前の会社でも黒毛和牛の繁殖をたくさん100頭くらいはやったけれど、黒毛に比べれば上手だし、母性本能もあるし、乳がたくさん出るから子どもは丈夫ですね。格段に黒毛和種と比べると子どもは丈夫ですね」

 牛本来の性質を色濃く残す短角牛に魅せられた葉阪さんは、牛舎の改修などに退職金を含めて1500万円も注ぎ込みました。ビジネスとして見れば割に合わない投資です。

葉阪裕子さん
「お金があっても特別やりたいことがあるわけでもない。これをやりたいからこそ戻ってきたんだから、それに今まで貯めたお金をつぎ込むというのは投資でもあり趣味でもありっていう感じです。その金額が高いか安いかというのはあくまで私の価値観だから」

Q趣味というよりは突き動かされる使命感と言うかそういうものに近いような気がするんですが
葉阪さん
「そうですね使命感と言うのはあるかもしれない。日本の畜産ってこのままでいいのって」

 今年もめぐってきた山上げの日。牛を連れ出すのに事故があってはいけないと葉阪さんも緊張しています。トラックに乗り慣れていない子牛は積むのにてこずります。

「親牛は何度も乗っているので扱いやすい」

 牛を乗せたトラックは10分ほど行ったところにある放牧地を目指します。牧草が生えて緑がまぶしい放牧地。トラックのゲートを開けると牛は喜んで大地に降り立ちます。

葉阪裕子さん
「県内だけでなく県外にも短角の良さを発信して、広く日本全国で短角を応援してもらえるようなことができるといいなと。それができれば1500万円なんて微々たる投資なんじゃないのって、私個人にすれば大きい金額ですけど」

 放たれた短角牛は、10月までのおよそ半年間広い大地で過ごします。


(06/10 18:42 テレビ岩手)

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