■犬猫だけじゃない!我々の食を守る県職員として働く「公務員獣医師」のシゴト(熊本県)
みなさんは「獣医」と言えば、どんな人たちが思い浮かびますか?犬や猫などペットの体調が悪かったり、検査だったりの時に見せに行くお医者さんたち…実は、動物病院以外の場所でも獣医師のみなさんは活躍しているんです。今回、県の職員として働いている「公務員獣医師」の仕事に密着。そこで課題となっていたのは…?
5月末。新緑が生い茂る南阿蘇村の草原に足を運んだのは、県職員で獣医師の吉田大志さんです。
■阿蘇家畜保健衛生所・吉田大志参事
「雌牛ですね。親牛が妊娠しているか検査するために来ました」
吉田さんは入庁9年目。現在は農林水産部の阿蘇家畜保健衛生所に勤務しています。草原に集まっていたのは南小国町の波居原牧野で赤牛の放牧を行うの畜産農家。子牛が生まれてから売りに出すまでを専門とする繁殖が専門の人たちです。この日は約2か月に1度の妊娠判定の日です。
■吉田大志参事
「子宮の中の胎児を超音波診断装置で撮影しようとしているところです。ついていない!」
吉田さんが行ったのは妊娠の判定だけではありません。
■吉田大志参事
「次いつ排卵するかというのを探るために、牛の卵巣の左右を触診しているところです」
Q触ってわかるものなんですか?
「排卵した後にできる黄体っていうのが特徴的な感覚をしていますので、その大きさだったり柔らかさですね。この子は左の卵巣が10日前ぐらいに排卵したような感触ですので、牛の発情周期が21日周期ですので。次10日後ぐらいをよく注意してやってください」
発情のタイミングや妊娠の有無を獣医師の判断で把握できることで、効率的な生産につながっているといいます。
■南小国町で牛を育てて50年・大塚嘉久さん
「2か月に1回妊娠鑑定するおかげで、空体期間というのか腹に入ってない時期がわかりますので、非常に経済的には助かります」
こうした畜産農家を支えるのも県職員の獣医師の仕事です。また同じ日、吉田さんはこんな所も訪れました。阿蘇市で繁殖用の馬を飼育している施設です。今年4月に県内では17年ぶりとなる馬インフルエンザの発生を受け、感染の広がりがないか確認しに来ました。
こちらは、宇城市に去年3月開設した「アニマルフレンズ熊本」。県の動物愛護センターです。ここでも県の獣医師が働いています。入庁14年目の成富英規さん。健康福祉部に所属し食肉検査場などでの仕事を経てこの施設に配属されました。
■県健康危機管理課 動物愛護班・成富英規参事
「病気になったままの状態ではなかなか譲渡も進まないので、日々より健康な状態になれるように定期的に健康診断をしています」
飼い主が手放したり迷子になったりしたイヌやネコの保護などを行っている愛護センター。「殺処分ゼロ」を掲げ譲渡活動に力を入れています。また、昨年度からは飼い主がいないネコの避妊去勢手術を実施していて、センターでは、1日最大35頭ほどのネコを手術しています。こうした中、課題となっているのが「人手不足」です。
農林水産省によりますと去年3月、獣医学を学び大学を卒業した学生の進路は、イヌやネコなどの小動物診療が半数近くを占める中、 公務員は1割ほどしかいません。全国的に公務員獣医師の人手不足が課題となっています。
熊本も例外ではなく昨年度は16人の採用予定に対し、応募したのは6人で実際に採用につながったのは2人だけでした。過去10年間、採用予定数割れが続いています。そのため、現在145人いる県職員の獣医師のうちおよそ3割は定年退職したOBが担っています。
■県健康危機管理課 動物愛護班・成富英規参事
「近年獣医師が不足する中で、やっぱり不足した分今残っている獣医師に業務の負担がしわ寄せ的なところでかかっているところもありますので、少しでも多くの獣医師を目指す方々が獣医になられて、公務員獣医師も増えていただけると非常にありがたい」
県の獣医師の仕事は、家畜の繁殖から食品として並ぶまでのあらゆる検査過程のほか、伝染病の予防や衛生管理の指導など多岐にわたっています。
■阿蘇家畜保健衛生所・吉田大志参事
「わたしたちのような公務員獣医師は(動物病院の獣医師と違い)何かの病気の発生予防だったり病気が発生したとき広まらないように動くのが仕事なので、なかなか目に見えたやりがいというのは感じづらいところはある。自分がやっていることがどのようにつながっているかを 理解してもらえれば、とてもやっている意義はあるかなと思います」
【スタジオ】
(藤木紫苑記者)
動物のことを守っていますが、私たちの食生活の安全も守っている欠かせない職と言えます。
(緒方太郎キャスター)
一方で公務員獣医師のなり手不足が深刻なんですね。なぜ、なんでしょうか。
(藤木紫苑記者)
1つには、なかなか存在が知られていないこと、そして獣医を目指す人の大半はイヌやネコなど動物に親しんできて獣医を目指す人が多いのでどうしてもそちらの選択が多いことがあります。もちろん動物病院の獣医師と比べて待遇面の問題もあるこうした複合的な要因もあります。そこで今、県は「県職員の獣医師」を選択肢にしてもらおうと様々な対策をしています。
例えば県は独自の就学資金の給付金制度を設けています。国立大学で月に10万円、私立大学は月18万円を一定期間、県の獣医師として働くなど条件を満たすと、返還が免除される仕組みです。2016年度からこれまで12人が制度を利用して県の職員になったということです。
他にも新卒で県職員の獣医師になると初任給手当が月6万円支給されます。次年度からは徐々に減りますが、20年間一定の手当があるということです。わたしたちの食の安全や動物たちとの共生を裏で支えてくださっている仕事です。興味を持った方は調べてみてはいかがでしょうか。
(06/12 20:04 熊本県民テレビ)
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